その九
池田公お墨付きのソウルフード
鳥取県には、古くから豆腐の文化が伝わり、江戸時代、ときの鳥取藩主池田光仲公が「魚の代わりに豆腐を食べなさい」とのお触れを出したことに始まるらしいという説が有力と言われています。当時魚はまだ貴重で、とても庶民の口に入るものでなかったため、タンパク質
を補うのに豆腐を奨励した。そこで、「豆腐で新しい料理ができないものか」と考案したのが、ちくわの原料にふんだんに豆腐を入れることで生まれたのが、この「とうふちくわ」です。
「とうふちくわ」は、味豆腐と魚のすり身を混ぜ合わせた、柔らかくまろやかな味わいの伝統食品。江戸時代から続く鳥取の伝統の味であると同時に、豆腐はもちろん、魚も肉に比べヘルシーで脂肪分がたまりにくく、最近流行のメタボリックシンドロームに悩む人にもピッタリな一品といえるかもしれません。まさに機能系郷土料理。質素倹約健康増進のために生まれた食文化だけあって、低カロリー低脂肪高タンパクな上に豆腐に含まれる健康成分がぎっしりつまった健康美容食でもある。
皿に盛り食卓を飾る、わさび醤油で刺身風に、焼いても煮ても最高の酒の肴になる…と、とにかく重宝する食材であることはもちろん、「携帯できる」「ほうばれる」という、現代のポレメシのような機能で当時の庶民の胃袋を支えていた様子が想像されます。まさに鳥取が誇る万能食材。機能系、機能系と言えど天然素材だから毎日でも食べられる。温泉と並び庶民の毎日を支える、城下町の庶民を中心にみんなに愛された鳥取のコモデティなのです。現在でも冠婚葬祭のみならず、何かという席には必ずとうふ竹輪盛りが出ると行っても過言でありません。
噛みしめる度ふんわりしっかり豆腐の香り。豆腐のやさしい舌触りの中に、魚のうまみがしっかり。質素倹約を目指した結果、グルメにまで到達してしまった感のあるソウルフードです。そして庶民に普及し、今でこそ、B1グランプリにも出場する代表的な郷土料理に成長している。質素な生活の中から生まれたイノベーション。とうふならではのぷるんとした艶やかな白い肌と食感。庶民の中で介され続けるに値するその「やみつき」感は、一度食べれば納得のもの。お土産にも最適です。
鳥取城下は秀吉の中国攻めの「渇え殺し」などでも有名な合戦の舞台。戦乱につぐ戦乱の歴史のなか、都市としてはもちろん農耕地としても発展は後ろ倒しで進んでいた。 またつぎつぎと変わる城主への民衆の忠誠度は低く、年貢の徴収が困難な土地柄であった。さらには徳川家と由縁の深い池田家故の32万石という大食扶持。質素倹約・健康増進の両立は必須課題であったことでしょう。そのような困難な食事情においての町人達の考案は、現代の地方創生といったところか。また鳥取には陶芸や生活品を中心に花開いた民芸運動の歴史も。生活の中の衣食住・全方位に渡り、美(味わい)と機能性を融合させようとするその心によって磨かれ、 現代に至るまで鳥取の食文化として発展した「とうふちくわ」。その白い切口は、鳥取の歴史も練り込まれているのです。
池田公お墨付きのソウルフード
質素倹約から生まれた「とうふちくわ」
鳥取藩政から生まれた“ロイヤル”なB級グルメ