財界支配がはびこる都市イナバシティー。白昼街中で起こった騒動を、容易く財界支配者層の一人がもみ消した。ここでは日常的に区警との癒着が横行する。カセリョウは街の財界人であり、彼がまく名刺には凶暴な抵抗力と持った免罪符のようだ。彼以上の強権はこの街に存在するのだろうか。

 

倒壊事件の現場。名刺に何か書き込見ながらカセリョウがひとりの若い区警と話していた。そこにテツロウと母が近ずく。区警の肩越しにその姿を発見したカセリョウが母に話しかける。
カセリョウ; 「お怪我は?これからどちらまで?」
カセリョウは馴れ馴れしく母の手をとるがテツロウの母はそれを振り払った。
テツロウの母; 「私は、これからカズマ様の屋敷へ向かいます。」
それを聞いたカセリョウ、言葉を失い、顔を青ざめさせる。プレイボーイのそぶりから一転、女子供のように急に震えだした。
カセリョウ; 「シ、、シーカー??!!」
カセリョウ思わず声を漏す。そして後ずさると、会釈し走り去った。目上に詫び、だが、急ごしらえで瑣末な会釈。立ち去ったカセリョウはすぐのち、区警の車両内で尋問を受けていた先程のオニの首根っこを引っ張りながら母子の前に戻って来た。自分への叱責、まんまとハメられてしまったことのグチをこぼしながら。
カセリョウ;「たいへん申し訳ございませんでした。後日、必ず出頭します。カズマ様へのお土産には、このオニはもちろん、もう一人二人、若いのを用意します。」


どうやら、カセリョウら財界支配者層の人間に「シーカー」と呼ばれ恐れられている“カズマ”の従者二人は、息を殺し潜み陰に生きる者でありながら、財界支配者をも恐れさせる巨大行使力を持った存在のようだ。彼らは果たして、何かを見張っているのか、それとも待ち伏せているのか…。



カセリョウは土下座させようとオニの頭を無理やり地へ押さえ付けようとするが、状況を理解していないオニはそれを抗う。代わりに慌てて土下座をするカセリョウ。 オニ;「なんだ、なんだ、一体、、、」 状況を理解できないことに苛立ち、仁王立ちするオニ。ラオウを潰した右手が、先ほどのその時のように膨張し始める。 カセリョウ; 「あ、あほんダラが、、、」 地面を見たまま、カセリョウが口からこぼした。その時、母子の容姿に異変が。微細な顔の表情などといったものではなく母子のいるその空間ごと歪んだようにオニには見えた。テツロウと母の顔は大きく歪んだのち、フォログラムのように全身が透けはじめる。 ちょうどその時だった。「デュアルか!」背後にいた若い区警が聞き慣れない言葉を呟いた。 母子の体が完全に消えると、そこには二つの物体が浮かんでいた。 母の居た場所には金の獅子頭。伝統芸の獅子舞のあれに似ているがやや違う。テツロウのほうには鏡のように周囲を映す金の球体。虚像だった人像が消え実像が出現。その途中「デュアルか!」のセリフに金色の球体が反応し1点小さく光を灯す。まるでその言葉を拾ったように。動揺するオニに対して、カセリョウは出るものが出た、といった表情。オニにとっての得体の知れないそれを彼は良く知っているかの様だ。 怯みながらも、オニ;「コケ脅しかナニか知らねえが…」 その言葉が虚勢と知ったカセリョウがオニの肩をつかみ抑える。 オニの耳元でカセリョウ;「ブタバコからはすぐ出してやるから、今は交渉の為の時間を稼ぐんだ。」 オニとカセリョウのやりとりを前に、これまで無口だったテツロウの実体、金の球体が喋り始めた。 球体;「我々はカズマ様の屋敷に向かうところです。カズマ邸でお待ちしてますので明日いらっしゃって下さい。」そう言い終わると急に球体は別の者の前へ(浮遊しながら)移動した。移動した先に居たのは先の若い区警だった。 球体;「来てもらいたいのはあなただけです。どうです、〝お一人で〟いかがですか。」 一拍おいてうなずく区警。その表情は、押し殺そうとはしているが、明らかに思惑に満ちていた。


オニの暴力もカセリョウの財力も去(い)なしてしまう不思議な浮遊物。投影装置なのか。恐ろしい破壊力でも持っているのか。そしてそれにもまして、それらを遠い背後で操る“カズマ”の存在が、何やら恐ろしい。気になる因幡の地の黒幕とはこの“カズマ”なのだろうか…。


ーーー



武家屋敷の多いイナバシティー。中でも、特に広大な武家屋敷。その庭に面した回廊を歩く因幡区の軍士。その早い足並みに歩幅を揃え歩く男がいた。昨日の区警だ。敷地内の庭に面した回廊を行く二人。庭園に面した濡れ縁が終わると、和の様相から洋へ変わるその棟の一室、その中にカズマは待つ。入口の重厚な木製のドアはその格調以上に、蝶をモチーフにデザインされた蝶番(ちょうつがい)の金細工が扉を前に立つ者の目を惹き圧倒する。扉の前に立ち一呼吸入れ、微かな笑みを浮かべる二人。この状況では不思議に思える仕草だった。因幡軍士は慣れない介添え役のせいか、カズマとの面会のせいか、すでに額に緊張の汗を光らせている。扉をノックしかけた、まさにその矢先、部屋の中の者が、ヌっと顔を出し、ドアノブを握ったまま第一声をはなつ。 「お前は外で待て。」 その声の主と顔を見合わせ目を丸くする因幡軍士。その顔は自分と瓜二つだった。因幡軍士が躊躇し怯んだ瞬間を逃さず、同じ顔の声の主は隣の区警の胸ぐらを掴むと、 「用があるのはお前だけだ。」 言うが早いか、区警の胸ぐらを掴み部屋に引き摺り込むと扉を閉めた。 「いらっしゃい。同業者さん。」 カズマの部屋に区警を引きずり込んだ男は、挑発的にそう言うと、脱出を試み扉に戻ろうとする区警の胸を押さえ、扉から遠ざけた。 その男こそが、真の因幡軍士だった。 一瞬言葉を飲み、振り返って部屋の様子を見直す区警。そこには一人の青年が。精悍な顔つきだがどこか女性を思わせる中世的な印象。体つきも華奢に見える。渡辺数馬、その人だ。数馬の足元には昨日の金の球体が。一見すると転がっているように見えるがわずかに浮いている。 数馬;「外に居るのはシーカーですね。」 ー (部屋の外で、扉を見たまま思考を巡らせて居るニセ軍士)ー ニセ軍士;「バレてたか…。」 言い終わると偽将軍の体が消え、実態の球体が。昨日の球体、つまり今日は数馬の足元で浮遊していた球体とよく似ているが、こちらは銀色。どうやらこれらの球体はナリスマシのために人を立体投影する装置のようだ。この時代にしかないこの装置がシーカーと呼ばれるもののようだ。 銀の球体;「いや待て、気づいてるのは中の人間だけか…」 思考が解決に至った銀の球体は立体投影し再び将軍になりすまそうとする、が、立ち上がった最初の像は別の顔。昨日の倒壊現場で名刺をまいたあの男、カセリョウの顔だった。 銀の球体;「いけね、間違えた…」 凡ミスの照れ笑いを嚙み殺し、再び将軍の顔に戻ると、扉の近くの待時イスに腰掛けて待時を装う。 ― (再び数馬の部屋の中) 目をつむり、思考を巡らせて居る区警。結論に至り目を開ける。親指で扉の外を刺す。 区警;「外のはシーカーだったのですね、、、。あやうく騙されるところでした。」 金の球体(少し高く浮き);「サル芝居やめろ!外のヤツは仲間だ。お前『亡国』側の人間だろ、、、」 数馬;「やめろ、パトラッシュ!」 数馬(区警に顔を向け);「パトラッシュはあの時、あなたが言ったことをスキャンしました。パトラッシュのように投影立像を2体つくれるシーカーをデュアルと呼ぶ、そのことを知っているのは一部の開発者と特務だけです。」 区警;「・・・・。」 金の球体(以下、パトラッシュ);「正確に言うとスキン(投影偽身)した後の自分は喋れなくなるから、フル・デュアルじゃなくセミなんだけどね。」 数馬;「やめろよ、パトラッシュ。それも機密事項だよ。」 パトラッシュ;「マスター数馬、よくわかっておりますよ。でも、コイツ、我々をスキミングしようとしてたんですよ。」 数馬;「いいから、その口の聞き方だけはよしてくれよ。この方は『亡国』ではすごく偉い方なんだよ。」 パトラッシュ、反省してない様子で区警に近づき;「ちなみにスキン後は寡黙になる僕を見て、マスターはパトラッシュって名付けたのさ!」 数馬;「…パトラッシュ!」 パトラッシュ(ビクついたように一瞬上昇);「名付けたでございます~」 言いながら数馬のそばに戻る、金の球体パトラッシュ。 区警;「亡国の重鎮、スキミング行為…。決めつけないで下さい。」 因幡軍士;「往生際の悪さは民意を損ねますよ。腹を決めてはどうですか?」 区警;「本国の者でないことは認めます。卑怯な接近の手口はお詫び致します。申し訳なかった。しかし私は亡国の者ではない。危険を承知で、祖国に身を捧げるつもりで、あなたの見前まで来たのは亡国の民と同じですが。」 数馬;「連合国ですか?」 区警;「違います。私は亡国でも、北東欧国でも、西欧米国でもありません。」 (しばし沈黙) 数馬;「いずれにせよ、シーカーを従えて行動する調達隊である以上、“異今日(いきょう)の本”で戦わせていただきます。お話はその後で」 因幡軍士;「我々の調達品として本はいただく。ただしあなたが勝てば身柄は拘束せず、その本はあなたの財産として好きに使えば良い。」       (次回、第3話「シーカーVSシーカー」に続く)



〜わかるけ、何もそれを歌にしなくたって…〜
Tne Rolling Stones「アンダー・マイ・サム」
(あいつは言いなり)
シーカーと言えば、The Who。街はシーカーの「言いなり(Under My Thumb)」、シーカーは数馬の「言いなり(Under My Thumb)。ということで、今回のご紹介はTne Rolling Stones「アンダー・マイ・サム」。野郎のハモリはちょっと、とフー版Under My Thumbを敬遠されてる人にはこの本家ローリング・ストーンズ版がオススメ!