この連載は、ライトノベルの様式をとり、進代都市因幡で活躍する荒木又右衛門や渡辺数馬を中心にすえて「因幡事変」を描写するものだが、そもそも因幡区とはどのような環境でどのような人々が住んでいるのか? まずはこのあたりを掘り起こそうと思う。異なる時空の話ではあるが、読みやすく現在進行の描写で記載した。また、とりたてて重要でない人物に仮名をあてている部分がある。

 

因幡区イナバシティーは、旧鳥取県地域の中でも早くから砂漠化が進行し、路面にさえ風紋ができるほどであった。ほぼ全てのビルの壁面には砂地性の植物のツタが這う。 砂の白、緑と空色が構成する街全体や路地の景観は、美しく、退廃的なムードはない。今、一人の男が路地を歩いていた。男は北斗拳羅王(ホクトノケンノラオウ:仮名:以下ラオウ)。そのラオウが今まさにミッドタウンの台所“武蔵野食堂”に差し掛かり、通り過ぎようとしたその丁度、テーブルの雪崩れる音とともに店から一組の母子が飛び出してきた。幼少の素利奈院鉄朗(スリーナインノテツロウ:仮名:以下テツロウ)とその母。子をかばいながら店外に退散したか細い母が、ラオウの進路を塞ぐ。母子二人は驚くラオウに目もくれず店に向き直り、母は膝を曲げ低頭し叫ぶ。    

 

母; 「◯◯◯様の銘においてお許し下さい!!」

 

    母の叫びの前半部はラオウには聞き取れなかった。か弱き母子はなぜ客の一人から激しい怒りを買ったのかわからないが、まるで三文芝居劇のような典型的な弱者強者の図式だった。だが、ラオウにとっては見慣れた光景であり且つ、かねて憤り(いきどおり)を感じていた嫌な光景だった。握り拳にチカラを込め、リキむラオウ。その直後、けたたましい破壊音。さげた頭をあげなおす母子。 二人の向いた先に、建物に収まりきらず巨体化した人物が店を大破させながら立ち上がる姿があった。  

 

平付士鬼人(ペプシノオニ:仮名:以下オニ); 「 ◯☆△□(´ཀ`」 ∠)!!! □△◯☆!!!!!! 」

 

  もはや理性を無くしたオニの拳が、巨龍の首のようにゆっくりとモタれ上がる。その姿に、ただただ震えるだけのテツロウ。それを見かねたラオウは、テツロウを鼓舞するように、また、オニを挑発するようにl、叫ぶ。      

 

ラオウ; 「小僧‼︎ 怖くばヤツの腕をくいちぎってでも抗え‼︎戦わねばそのふるえは止まらぬ‼︎」

 

 

  母子、オニ、怒号に反応し静止。ラオウにとってその怒号は、この都市に澱(オリ)のようにはびこる権力構造への抗いの怒号だった。  

 

 

オニをにらみ、ラオウ; 「我は神とも戦うまで」

 

 

 

 

    ラオウは確かにそう言い放ったがはたして、その最後のコトバは遺言として母子の耳に届いただろうか…。もはやわからない。突き刺された巨木のような拳をオニが持ちあげると、その下でラオウは、肉塊となった亡骸を母子に晒した。    

 

震えるテツロウの肩に手をかけ、母; 「だ、だから、私は◯◯マ様の…」

 

  老舗名店、武蔵屋食堂の破壊音を聞きつけた街の消防隊が到着。その消防車両に続きもう一台、「許可」とナンバープレートに記された特殊車が到着。特殊、といっても砂地用の見慣れないタイヤ以外は現代見慣れたセダン車だ。その車から、タイトなスーツを着たみるからにホワイトカラーな男が、降りるやいなやひるむ消防隊を尻目にオニに近づいていった。  

 

 

周囲を威圧するよう叫ぶホワイトカラーの男; 「フジタケグループの外零士仮性亮(アウトレイジノカセリョウ:仮名:以下、カセリョウ)だ!」

 

    カセリョウはそう叫びながらスーツの内ポケットから自分の名刺をばらまく。枚数が半端ない。その名刺に、テツロウも消防隊員もその名刺にむらがる。 テツロウの母も、衣服についた飛び交う1枚を何気なく手にし、記載を見つめる。 オニも巨体を見る見る縮めて名刺の奪い合いに加わり、ありつけた名刺を眺めるころにはすっかり常人サイズにもどっていた。  

 

ーーー

 

    「KEEP OUT」の帯の貼られた、武蔵屋食堂近辺の路地。事情徴収する区警のうちの一人とカセリョウが何かを話している。    

 

区警; 「オニは御社の若い衆だったんですね。」
       「そろそろ我々もかばいきれなくなりますよ」

 

 

名刺に万年筆で何かを記入し市警に渡しながら、カセリョウ; 「まま、そう言うなよ…」

 

 

 

非力の上に暴力、暴力の上に財力が君臨し、財力が報われない非力層を生む。進代にはそんな不条理がある。それは現代や歴代にたがわずだ。違うのは、 進代ではそれは見えないウラではなく見えるオモテであること。わざわざ、腐敗して見える権力構造をオモテにもってきている。では、この進代の表向き社会を装うウラの存在は何なのか? より陰を極めた、腐敗を量産する黒幕なのか。あるいは謙虚に世を支える立役者なのか。(第2話に続く)

 

 

 
〜伝統の味を守り続ける老舗の大衆食堂〜
武蔵屋食堂
明治45年創業の伝統を誇る料理店。一番の人気メニューは、鳥取産の小麦を使った素ラーメン。麺は敷地内に設置された製麺機でつくられ、新鮮で身体にやさしい味わいが楽しめます。鳥取で初めて洋食屋を始めた初代の思いを引き継ぎ、洋風に仕上げた『かつ丼』もお勧め。食材は地元・鳥取のものを中心に使用し、その他の国産の食材を使って、秘伝の味を創出。