2017年3月19日、鳥取県米子市末広町のガイナックスシアターで開催された伯耆国 大山開山1300年祭プレイベント「お刀コンシェルジュin米子」で、鳥取池田藩伝来「浦島虎徹」を、渡辺美術館と鳥取県が協力し、因幡地方唯一の刀匠金崎秀壽氏の手で、2017年1月に蘇らせた「平成の浦島虎徹」が特別展示披露された。
トークショーでは、漫画KATANAをコミック誌に連載中の漫画家かまたきみこ氏がコーディネーターをつとめ、パネリストに、日本刀匠会の会員で、3年連続で日本一の刀匠として高く評価され、全国でも注目を集める刀鍛冶界の麒麟児、川崎晶平氏、全国にわずか数名という装剣金工師の木下宗風氏、米子ガイナックス代表の赤井孝美氏を迎え、ここ因幡伯耆地方が、実は知る人ぞしる、たたら製鉄と刀剣の里であることを熱く語った。
西洋式の近代製鉄が発達するまでは、日本刀に限らず、クワやスキ、釘などに至るまで、かつての日本国内の鉄製品は全てたたら製鉄でまかなわれていた。そのたたら製鉄にかかせない砂鉄を多く採取できた中国山地周辺は、日本の鉄製品供給の中心地であったといえる。さらにここ伯耆地方は、その砂鉄の中でも非常に鉄の純度が高い真砂土から取れる真砂砂鉄がとれた地域であったことなど、この地方がたたら製鉄の里として栄えた理由が語られた。
まず話題に上がったのは、刀剣ファンならば誰もが知る、伯耆安綱(やすつな)とその伯耆安綱が残した名刀「童子切安綱」。その存在はここ伯耆地方と刀剣とたたらを語る上で欠かせない存在であることが改めて浮き彫りとなった。大山1300年祭の企画されている、大山寺の宝物殿に東京国立博物館所蔵の国宝「童子切安綱」の特別展示に向け、伝説の刀匠「伯耆安綱」と共に、刀剣の里としての鳥取に注目が集まることが期待される。
<トークショー前半/たたらと伯耆安綱など>
川崎氏は、良質の玉鋼が生産されたこの地に、腕の良い刀工が集まり、その作刀の技術に磨きがかけられた刀剣の里で、全国的にも有名な名刀「正宗」がその作刀の手本としたという、日本刀の祖「伯耆安綱」は、平安期にこの地で作刀を続けた非常に素晴らしい刀匠であり、そのことをもっとこの因幡伯耆の人は知るべきで誇るべき。「現在、伯耆安綱作として残る五つ日本刀。古い時代の刀は、短く鍛え直されることが多い中、安綱の日本刀は、全てが当初の長さのまま残されている。手に取った人が、手を加えるのをためらわせる品位があるのだ」と、伯耆安綱の魅力を語った。
トークショーの最後には、特別展示の「平成の浦島虎徹」についても熱く面白い議論が交わされた。川崎氏が、同じ刀匠としての視点で、時に「古鉄」と称していた長曾禰虎徹は、良質な古い鉄を新たな鋼として打ち直す高い技術を持っていたことや、刀剣を打つ技術もさることながら、中子に試し切りの評価を記載したり、著名な剣士に刀を進呈して使ってもらうことで虎徹の名を売るなど、宣伝上手な刀匠であったことを語った。また、かまた氏が、パネリスト3名に、浦島虎徹に描かれている図柄は何なのかという真相について、各々の見解を手描きの漫画で推論の発表を求めると、川崎氏は、木曽の山の中に残る浦島太郎伝説に着目し、山の中だから暖かそうな服装をしているのではないか。そして亀を探して遠くを見つめているのではないか、と、面白い推論を語った。赤井氏は、近所に魚釣りの名士がいて、「いい魚が釣れたら持ってくるから、俺を彫ってくれ」というような、広告的な関係の何かがあったのではないかと、宣伝上手な虎徹ならではの発想を取り入れた見解だった。
<トークショー後半/浦島虎徹など>
確信をついた推論を繰り広げたのは木下氏の「竹取の翁」の説であった。翁の持つ若竹の描写は若い姫を示していることに触れると同時に、竹取物語に語られる、龍の宝珠を取ってくるように命じられる若者のエピソードと、裏に彫られた虎徹特有の龍の略図(草の倶利伽羅龍)宝珠の彫られ方の特異性に竹取物語との関係性を見出した新たな見解を発表した。刀身の表に彫られた人物は、月へ帰っていくかぐや姫とそれを見上げる翁という解釈は非常に説得力のあるものだった。
実は、このイベントが入場制限50名とされていた理由は、トークショーの後に用意されていた、パネリストの川崎氏や木下氏が手がけた日本刀を手にとって鑑賞できる、日本刀の鑑賞会が実施されたからである。制限を若干オーパーして集まった約60名の来場者は、日本刀鑑賞の初歩的な礼儀作法の指導を受けながら、本物の日本刀の魅力に直に触れる特別な体験を通し、改めて日本刀の魅力に引き込まれている様子だった。
<刀剣鑑賞会に出品された一振の刀身>
また、鑑賞会会場の横には、「平成の浦島虎徹」にも施されている、日本刀への彫金に関する資料が展示され(技術的に秘密の資料のため撮影禁止)、あわせて、トークショーには参加していなかったが、「備前長船刀剣博物館」にて作刀する現代刀工・刀匠の満足弘次さんが制作した、「正三位の位あり」と謳われたその伝来と姿の美しさ、完成度の高さから現存する大身槍「日本号」のミニチュア写しも展示され、小さいながらも、その精巧な美しさで来場者を魅了していた。(こちらは撮影OKだったので写真あります。)同じたたらの産地として刀剣の里として発展し、現在もその作刀の精神が受け継がれている中国地方の備前長船。近いうちに一度、刀剣博物館を訪ねて、ここ中国地方の刀剣の里としての魅力を探求してみたいと思う。(文責:とっとり麒麟ツアーズ記者 竹中)
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